…インド古典音楽ってすごく濃密な音楽なんですけど、そういうものが段々骨の中から少なくなっていってるような気もします。だから、色んな人に体験してもらいたいです。どんどんつながっていく関係性がいっぱいある音楽なんですよね。技術的な部分ではなく、根本にある何かをキャッチ出来たら、バラバラだった情報がつながり始めます。演奏者として思うのは、音楽の中にその濃密なものを感じてほしいということです。僕は、タブラ奏者として、その体験をより良くしていく立場なんです。…
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北インド古典音楽 タブラ奏者 ハヤシ レオさん インタビュー
2023年11月
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「NGは一切なしですよ!何でも聞いてください」と、軽やかな笑顔から始まったインタビュー。5歳でタブラを始め、21歳の若さですでにタブラ歴16年目のレオさんが、これまでの道のりと今の率直な気持ちを語ってくださいました。
INDEX
✲ タブラを始めたきっかけ
✲ 今のグルジー(師匠)との出逢い
✲ タブラを続ける中での心境の変化
✲ 日本での音楽活動について
✲ 今興味のある音楽など
✲ 今後の目標
アーティスト:レオさん
インタビュアー:Ai
タブラを始めたきっかけ
――― Ai:
5歳からタブラを始めて、8歳から高校卒業までインドに住まれていたと伺いました。
そんなに小さな頃から本格的にタブラをやるなんて、珍しいですよね。
具体的にどういうきっかけで始めたのか教えていただけますか?
――― レオさん:
僕の場合はまず、親が旅好きでした。特にインドがすごい好きでしたね。
だから、父が趣味で習ってたタブラが家にあったんです。
雑貨屋で売ってるおもちゃのタブラみたいなやつ。
インドで騙されて掴まされるようなやつあるじゃないですか。
僕も覚えてないけど、写真で見たら多分そんな感じのでした。
それが、2歳の頃です。
※ツーリストでインドに行っていた頃
母は、インド古典音楽のライブに行くのが好きやったんですね。
インドでもよく行ったし、日本でも大阪に住んでる頃よく、ベビーカーで連れてってもらってました。
その影響もあって、タブラやりたいっていうのは、ずっと言ってたみたいです。
まぁでも、母もそんな小さい子どもが言うことやから最初は本気にしてなかったし、僕もチャラい気持ちやったとは思います。
でも、5歳になってもまだ習いたいって言い続けてたから、「じゃあ、ほんまに習う?」ってことにりました。
大阪に室優哉さんというタブラ奏者の方がいて教室をされてたので、習い始めました。
一番最初は日本人の先生だったんです。
今のグルジー(師匠)との出逢い
※グルジー(師匠)のウスタッド・アクラム・カーン氏
――― レオさん:
6歳の頃だったと思うんですけど、いつものようにインドにツーリストで行った時に、バラナシで大学の先生からタブラを習えると聞いて、インドではその先生に教わるようになりました。
それから2回ぐらいインドに行った後、今のグルジーにあたるウスタッド・アクラム・カーンさんと出逢いました。ガンガー沿のオールナイトコンサートで、4人くらいの伴奏を連続でされてました。
その演奏を観た時、「この人や!」と思いました。
コンサート後に喋りに行って、どうしたらタブラを習えるか聞きました。
通いとかツーリストには教えていないけど、デリーに引っ越したら教えると言ってもらったので、もうその時心の中では、インドに引っ越すことに決めてました。
※インドに引っ越した後、10歳の頃
母はその時シングルマザーだったんですけど、「本気でやりたいんやったら、デリーに引っ越してもいいんちゃう?」って言ってくれて。
2011年の東日本大震災直後で、人も状況もバタバタしてた中だったから、タイミング的にも良かったんです。
運よく母も、現地の日本企業での就職が決まりました。
それで、僕が8歳で小学3年生の時にデリーに引っ越しました。
そこから、2021年の高校卒業までの10年間は、日本へは2回帰ってきたぐらいです。ずっと向こうで、学校とタブラのレッスンの毎日でした。
※インドでのグループレッスン風景
――― Ai:
すごいですね!
小学校低学年にして既に数年のタブラ経験があって、今のグルジーの演奏を聞いた時「この人や!」っていう感覚をキャッチ出来た訳ですよね。
――― レオさん:
いやぁ、なんかもう、本当衝撃的やったんですよ。
4人ぐらい連続で伴奏してて…、全部素晴らしい!
もうジャーラとかも、バリバリ、バキバキで、そのタブラを聞いて、これはすごい!って。(※ジャーラ:クライマックスの速いリズムのパート)
グルジーとの出逢いの後、日本に帰った時も、CDを聞きまくってました。
母もそのタブラの音が綺麗で気に入ってくれて「こんな方から本当に習えたらいいね!」って言ってくれてて。
本当に環境にも恵まれましたし、母にもすごく手伝ってもいました。
あとは自分の意志も強かったから、やりたいやりたいって、ずっと思い続けて…、とうとう引っ越すタイミングがきたんです。
※いつもサポートしてくれた母
――― Ai:
タブラを始めた頃から、インドに引っ越すまでの間も、毎日練習したんですか?
――― レオさん:
だと思いますよ。一番最初に室優哉さんから習った時も、まぁまぁ厳しく教えてもらったんで。
「次のレッスンまでに出来へんかったら◯◯や!」みたいな感じで、5歳の僕は「お母さん、◯◯って何?」みたいなやり取り(笑)
大阪人らしいユーモアも交えつつ、結構真剣に練習させられました。
――― Ai:
へぇ~(笑)最初の出逢いも、良かったですよね。
5歳の子ども相手やけど、真剣に教えてくれはったし、レオさんからもきっと、そうさせるやる気や本気が感じられたのかも知れないですね。
――― レオさん:
そうそう。だからそういうご縁もあって…、うん。
多分、モチベーション高いまま、今のグルジーと出逢えたなと思います。
タブラを続ける中での心境の変化
――― Ai:
今のところ話を聞いた限りでは、そんなことないかもないかも知れないですけど、タブラを続ける中で、「辛いな、やめようかな…」と思った時期ってなかったですか?
――― レオさん:
いやぁ…、ま、最近じゃないですかね、それは。
やっと、段々大人になってきて、本当にレベル高い人ってこんなにもレベル高いんやって気付くようになって。
でも、もう今僕は21歳とかで…、うん。
今までやってきたし、もちろん好きやし。
これ以外にやりたいことなんかないな、って思うから。だから「もう、真剣に頑張ろう!」みたいな感じです。
――― Ai:
なるほど。
今が一番、色んな壁が見えてきてること、大人になったんだなぁっていう気付き。すごいリアルで正直な気持ちですね。なんとなく想像できます。
日本に帰ってきて、音楽の世界でプロとしてやっていこうと決めて、自分自身を脱皮していく過程で今、レオさんの見ている世界も変化しているんだろうと想像しますが、目標や志といった部分で、変化したことがあれば教えてください。
――― レオさん:
日本に帰ってからは、学生じゃなくなったし、やっぱりいろんな意味で、子どもの考えのままでは無理やなっていうのが一番大きい気付きです。
今までは、カッコいいな!って思って、カッコいいからやりたい!みたいな単純な考えですよね。子どもが、ガンダム見てカッコいいと思うみたいに。
その例えでいくと、最近はその裏で、クリエイターの人はどうやって子どもが憧れるカッコいい作品を創ってるんだろう?と考えるようになって、視点がだんだん変わってきたんですね。
「カッコいいから真似したい!」っていう憧れる気持ちから、「カッコいい音楽を自分で創っていこう!」っていう、創り手目線への変化やと思います。
※コンペで優勝し、現地の新聞に掲載(右上)
日本での音楽活動について
――― Ai:
インドに住んで、純粋にインド古典音楽をやってるのと、日本の音楽シーンでインド古典音楽をやっていくのとでは違いがあると思うんですが、ニーズを意識することによって、今まで大切にしてきたインド古典音楽から外れていってしまうんじゃないかというような不安はありませんか?
――― レオさん:
僕の場合は、ありがたいことにすごいご縁があって、ナカガワユウジさんやヨシダダイキチさんなど、インド古典音楽を高いレベルでちゃんとやってる方々と一緒に、演奏活動させてもらえてるのは大きいです。彼らは、妥協とかは基本的にしないんですよ。
妥協やごまかしの音楽じゃなくて、ちゃんと本質的な音楽を求めていこうという姿勢が揺るぎない。
そういう人たちと一緒にできることで、僕がずっとインドでやってきたことを、継続的に高いレベルでやり続けることができると思ってます。
日本のように違う文化の人たちに、もっとインド古典音楽の良さを知ってもらうためにはどうすれば良いかと考えたり、気付かされたりもします。
だから彼らも含めて、インド古典音楽を真剣にされている人たちとのご縁を大切にしていきたいと思ってます。
あと、日本では、他の音楽のジャンルでの一流の人も沢山いるし、そういうものも見聞きして学んでいけるので、インド古典音楽だけにとらわれず、視野を広げていきたいと思ってます。
難しいけど、うん。
今興味のある音楽など
――― Ai:日本での生活にも馴染んでこられてると思いますが、インド古典音楽以外で面白いと思う音楽、注目してる人、興味を持っていることはありますか?
――― レオさん:
う~ん、そうですね。
日本ってやっぱり経済的に豊かな国だと思うし、音楽に限らず、海外に行って様々なものを学んでくる人が多いですよね。だから結構ニッチな音楽、今まで全然知らなかった音楽にも、出会うことができてます。
こないだはスペインでフラメンコを習った人のパフォーマンスを観に行ったり、音楽だと、日本で生まれて日本で活躍してる同世代で、ドラムや、カホンなど、パーカッションやってる人にも注目してます。
あとは、今年に入って、同い年の、J-POPのシンガーソングライターとの出逢いもありました。
崎山蒼志くんって言うんですけど、アルバムの中の一曲にタブラで参加させてもらったりしました。
お互い興味あるんですよね。
僕としては日本で育ってないから、日本で育って、日本の曲を作ってる子に興味がある。
彼は彼で、世界各国の音楽が好きやから、タブラ奏者の僕を見付けてくれて。
お互い気になることがいっぱいで、話も結構合うし、みたいな。
気になるジャンル、いろいろですよ。音楽以外でも、アニメ・演劇とか。日本の大衆演劇も一回観に行きましたけどなかなか面白かったし、新喜劇とかも良いですよね。
日本はやっぱりエンターテイメントが沢山あるし、その中で面白くて有名になっている人たちは実力があるからこそだと思うので、そういうのを見つけていくのが楽しいです。
今後の目標
――― Ai:
レオさんの存在は、若い人をはじめとして幅広い層の人に向けて、インド古典音楽を知ってもらえる機会をつくれる可能性の塊だなぁと思うんですが、レオさん自身はそういったことに意識は向いてますか?
――― レオさん:
最近、一番考えてることは、どうやったらインド古典音楽をより多くの人に知ってもらえるかな?ってことです。
サウンドエフェクターやルーパーも手に入れたので、タブラを使って何かオモロい音楽出来へんかな!?みたいなことも、同時に考えてはいます。
インド古典音楽は、すごく濃密な音楽で、インドでも文化レベルが高い層が聴く音楽なんですよね。
まずは興味、あとは忍耐力というか、ずっと聴いていられる落ち着いた心も必要です。その中で得られるものが沢山あると気付ける人が、本当の意味で文化レベルが高いってことやと思うし、年齢とかは全然関係ないんですよね。
僕の友達で、20代・インド出身・日本在住の子がいます。大学卒業して日本の企業に就職したんですけど、趣味でタブラをやってて、仕事より何より俺はインド古典音楽が好きや!みたいなことを言ってます。若いのにめっちゃおっさんみたいなこと言ってるなと思いますけどね。
本人は、インド古典音楽が大好きで、その環境を日本でずっと探してて、たまたまTwitterで僕を見つけて会いに来てくれました。
それ以来ライブにも毎回1人で来てくれます。
そういうのはやっぱり嬉しいですね。
普段も気軽に外出するのかと思ったら、「全然しないよ!」って。「僕、家でずっとインド音楽聴いてるんだよ」、みたいに言われて、「マジか!」と思いながら(笑)
インド人1人で来るのはなかなか珍しいけど、グーグルマップで場所を探して来てくれてるみたいです。
まぁ、何て言うんかなぁ。どうやったら色んな人に、インド古典音楽を知ってもらって、好きになってもらえるかな?って考えてますね、年代関係なく。
※インドの学校のバンドでバンマスみたいなのやってた頃
――― Ai:
インド古典音楽を通して何か伝えたいものがありますか?
――― レオさん:
さっきも言ったように、インド古典音楽ってすごく濃密な音楽なんですけど、そういうものが段々骨の中から少なくなっていってるような気もします。だから、色んな人に体験してもらいたいです。
今回はユウジさんとの演奏ですけど、今のインドでも、サーランギーでユウジさんのように上手く弾ける人は少ないですし、そんな音楽の体験を、色んな人にして欲しいと思ってます。
どんどんつながっていく関係性がいっぱいある音楽なんですよね。
色んな要素をどんどんつなげて、色んな方向につながりをつくっていく。
僕はそれをずっと意識してやってます。
関係性があるから、段々濃密になるんですよね。
帰国してからタブラのレッスンも始めました。
生徒さんに対しては、最初は難しいことがわからなくても良いって思ってます。ただ、受け入れる姿勢みたいなものは大事です。
基本的なことが出来ていなかったら、どんなにカッコつけたことをしようと思っても全然良い音楽にならないですよね。つい、先ばかり見てしまう人もいるかも知れないけど、自分を一歩引いて見た時に何をやるかを考えるんですよね。
技術的な部分ではなく、根本にある何かをキャッチ出来たら、バラバラだった情報がつながり始めます。
演奏者として思うのは、音楽の中にその濃密なものを感じてほしいということです。
僕は、タブラ奏者として、その体験をより良くしていく立場なんです。
――― Ai:
最後の方は特に深いお話で、今までインド古典音楽に触れて感じてきたことや疑問を抱いていたことなど、色んなことが腑に落ちたというか、とても伝わってきました。
今日は本当にありがとうございました。
12月3日の演奏、心から楽しみにしています。
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✲ ハヤシ レオ / タブラ奏者
2002年大阪生まれ。
幼少期よりタブラ奏者になりたい夢を抱き、5歳からタブラのトレーニングを始める。
7歳の頃、タブラの流派の一つであるアジュラーダー流派巨匠ウスタッド・アクラム・カーンと出逢い、翌年より同師に弟子入りするため、ニューデリーへ移住。
インド国際映画祭や国際見本市など、国営放送テレビやラジオにも出演。
2016年、インド・パンジャーブ州の伝統的な音楽大会、ハリヴァッラバ・タブラ・コンテストで1位。
2020年、インド国内から約300校が参加したオンラインのインド音楽コンクールで1位。
2020年、Prayag Sangeet Samiti より Sangeet Prabhakar(B.A 同等)学士を取得。
デリーの高校(Modern School)を卒業後日本へ帰国し、日本各地で活躍の場を拡げている。
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