大夢さんのインタビューの帰り。
心に浮かんだ言葉をつづってみました。
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言葉と言葉のあいだ。
風がくすぐる感覚は、
それがまるで答えを
運んでくれるみたい。
私がわたしでいられる
豊かな時間の流れの中、
心が満ちたりたある日。
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ちょっといつもと違った書き出しになりました。
言葉だけで大夢さんの雰囲気が伝わるかなぁ。ドキドキしています。
それを助けてくれるかのような写真とともに、お届けしたいと思います。
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北インド古典音楽 パカーワジ奏者
中川 大夢さん インタビュー
2021年10月
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INDEX
• 〜自然豊かな地での暮らし〜 大夢さんのお宅へ
• パカーワジとの出会い
• 人により添うような存在感、伴奏者としての在り方
• インド古典音楽とヨガ的な暮らし方
アーティスト:大夢さん
インタビュアー:Ai
• 〜自然豊かな地での暮らし〜 大夢さんのお宅へ
ご自宅のお庭から見た風景。風が気持ちよく取り抜ける、広々としたところでした。
この日は、11/21ドゥルパド ライブ "秋麗 あきうらら"で、タンプーラを演奏されるMisaさんと一緒に伺いました。猫ちゃんがなついてて可愛いでしょう!
まだ遊びざかりの子猫ちゃんです。
まずはお茶をご馳走になって...、楽しいお喋りと、心地よい沈黙の時間。
寡黙な方だということは知っていたので、こうして "間" の中から大夢さんの沈黙の言葉も感じてみました。
お願いして、大切な楽器 "パカーワジ" も準備していただきましたが......、これが何をしているところかわかりますか?
これなんです^^
パカーワジは片面にこうして、小麦粉を練ったものをつけて音程を調整します。毎回こうして時間をかけて準備をされるそうです。
大夢さんが小麦粉を練っている姿をみながら、それが終わるのを待つ......。 最後のひと押しをされたかのように、インド悠久の時の流れを感じる、インド古典音楽モードのスイッチが入りました。
完成です!
ここで初めて、「パカーワジと大夢さんの写真を撮っていいですか?」と聞いてみたんですが、「あ、それならもっと丁寧につけといたら良かったなぁ〜」と照れたように笑う大夢さん。そうは言っても、カッコつけることには全くこだわりのなさそうな様子。
段々と私たちの緊張もほどけてきて、すっかり居心地よくその場に馴染んでいました。
• パカーワジとの出会い
――― Ai:
では、いよいよインタビューに入らせてもらいます。もうここまでで充分大夢さんが伝わってきて満足のような気もするくらいですが(笑)
インド音楽やパカーワジについて、具体的な話を聞かせてください。よろしくお願いします。
どうやってパカーワジと出会われたんですか?
――― 大夢さん:
はい、よろしくお願いします。 元々は、インドに行ったのがきっかけです。
タブラを買って帰ったんですが、その時点ではまだタブラをしっかり練習しなかったんですね。
その後、日本でパカーワジの師匠のカネコテツヤさんに出会いました。テツヤさんが、僕の地元にエレキギターのライブをしに来られたんです。そこで仲良くなりました。
テツヤさんは、当時すでにパカーワジ奏者でしたけど、実は元ロックギタリストでもありました。僕も10代の頃からエレキギターを弾いていて、ちょうどその頃は、エフェクターをたくさんつないで、ミニマル・アンビエントのようなことをやっていました。
はじめてお会いした日にすぐ仲良くなり、その後イベントなどでお会いする機会もちょくちょくあり、そのうち地元でのライブを企画させてもらったりもしました。
ある時、タブラの演奏もされるというテツヤさんに少しだけタブラを教えてもらって、それがすごく楽しくて、それでタブラを習わせて欲しいとお願いしたんですね。そしたら「え、タブラを?無理だ。パカーワジなら教えられるよ」という流れで。
その後まもなくインドに行かれたテツヤさんが、僕の分のパカーワジを買って来てくれました。その当時ホントにびっくりするくらいお金がなかったんですが、親にお金を借りてなんとかパカーワジをゲットした覚えがあります(笑)
――― Ai:
トントン拍子だったんですね。
今のようにパカーワジ奏者になるほど、魅力的に感じたのってどういうところなんですか?
――― 大夢さん:
テツヤさんとの出会いがまずあったので、「この人に教わりたい」という気持ちはありました。テツヤさんとは気が合いましたね。
パカーワジは、ドゥルパドの伴奏に使われるんですが、最初はドゥルパを全く知らなかったです。でも、パカーワジを始めたことがきっかけでドゥルパの世界を知ったら、ものすごいハマりました。
――― Ai:
そうだったんですね。大夢さんは元々何かパーカッションをされてたんですか?
――― 大夢さん:
パーカッションをちゃんとやったのはそれが初めてです。なぜか、この流派にはギタリストあがりのパカーワジ奏者が多いんですが、個人的には、ギターをやってた頃に自然と身についた感覚、音楽の本当に基礎の部分や、即興で演奏する感覚などは生かされている気がします。 あと、口伝のインド音楽を学ぶ上で、ギター時代に耳コピができるようになったことは大きかったです。
• 人により添うような存在感、伴奏者としての在り方
テツヤさんからもよく聞きましたが、伴奏者にも歌こごろが必要で、ボーカルの人と一緒に歌ってるような意識があります。
一緒のところにいて、一緒に歌うような伴奏はやっぱり美しいし、その上でのいろんなコミュニケーションが楽しいところでもありますよね。
テツヤさんのグル・ジーであるPt.Shrikant Mishraさんの演奏は、その一音の凄さでも有名だったんですが、その伴奏の美しさが素晴らしくて...。 それがこの流派に受け継がれている美意識でもあるんだと思います。
――― Ai:
そうなんですね。
ナチュラルな流れでテツヤさんと出会い、自分の感性にピッタリの音楽や楽器と出会った。
大夢さんとテツヤさんは、すごく似ているのかも知れないですよね。
――― 大夢さん:
確かにそうです。
テツヤさんとあったら大概、ずっとボール(口で表現するタブラの音)の話をしてます。 会うたびに新しいことを考えていて、アイデアの元が無限に広がっていくんですよ。
テツヤさんはずっとそれをやっていて、どんどん発展していくんです。
パカーワジ奏者の間でしか通じないマニアックすぎるやりとりですけどね(笑)
音楽における美意識や美的感覚は共有できてると思います。
――― Ai:
お二人のマニアックな会話、聞いてみたいです(笑)
インドに行った時は、どんな風に過ごしてるんですか?
――― 大夢さん:
先生が日本人のテツヤさんですし、テツヤさんのグル・ジーもすでに他界されているので、練習自体は日本でもできるんですが、インドは練習には良い環境で、何のしがらみもなくいられて音楽に没頭できるところが魅力です。
楽器の調整や新調なども、ローカルの職人さんの仕事なので、やはり現地にいないと難しいものがあります。
あとは、もともと旅好きなのでインドにいるだけで楽しかったりします。
――― Ai:
日々の練習には、どんな意識でどんな風に向き合うんですか?
――― 大夢さん:
自分の行きたいところに行けるようにはしておきたい。
自分の持っているイメージを自由に表現できる状態でありたい。
そのためのテクニックの練習だと思ってやってます。
フラストレーションは不毛だと思うんです。
イメージがあるのに、それを表現できないのは嫌ですよね。
そういったフラストレーションのために音楽をやってるんじゃない...というか。
なんでしょうねえ。
..........間..........(ここで大夢さんの想いは伝わる。それってすごいことだと思う)
――― 大夢さん:
できるだけ自由に自分の思いのままに動けるようになる練習をしています。
例えば まだパカーワジを始めたばかりの頃の、調子が良かった時の満足感、調子が悪かった時の不満感。
今は、始めて6〜7年ですが、その浮き沈みの中で感じる感覚は変わってなかったりして、本当の上達とはなんなのか...というか、そこに大事なことがある気がしていて。
何となく意味、わかりますか?
――― Ai:
多分、私なりにわかる気がします。
――― 大夢さん:
そこに自分の思いが実現していたら満足なんだけど。その状態のまま先にいけたらいいな、と。フラストレーションを解消するために練習を繰り返していくんじゃなくて…。
わかんないですけどね、何が正しいかは。
――― Ai:
陶芸のお仕事をされている大夢さんならではの感性なんですよね、きっと。
すでに音楽以外のところで、精神的にある段階に到達していて、それを改めて音楽やパカーワジを通してやり直すというか、なぞっているような感じに見えます。
――― 大夢さん:
整ってない状態で、うまいこといかない状態でたたいてるのって苦痛でしかなくて。
..........間..........
(この日度々おとずれた、"間"。私はまるで、この "間" に神様を見るような気持ちでした。五感は開かれ全身で自然を感じる。わかんないけど、わかる。この感じを映像でお届けしたいくらいです。猫ちゃんが戯れる。何度も温かいお茶を注いでくれる大夢さん。豊かな時間が流れました)
• インド古典音楽とヨガ的な暮らし方
――― Ai:
パカーワジやインド音楽は、大夢さんの暮らしととても近い存在なんですね。
――― 大夢さん:
太鼓をたたいてると、自分の整ってない部分が浮き彫りになります。
それを一つずつ整えていったりしながらやってます。
インド音楽の修練もまたヨガだとも言いますが、これ一本だけですべてを整えていくのは僕には難しくて、大人になって始めた日本人はそう感じる人が多いんじゃないかなあと思います。
インド人で子どもの頃からやってたら、これだけでもいけるかもしれない気がしますけどね。
もっとシンプルな方法で整えたほうが良いところもあると思います。
そして状態が変われば、それがまた演奏や音にダイレクトに反映されていく。
――― Ai:
大夢さんを見ていると、パカーワジのためやインド音楽のためにやってる感じがしなくて、もっと自然に、音楽が暮らしにとけこんでるように見えます。
――― 大夢さん:
そうなのかも知れないですね。
先生や先人から受け継いだことをやっていて、僕も同じようにそれを発展させていきたい気持ちもあります。
同じ楽器や音楽でも、色んな世界観でやってる人たちが他に沢山います。
師弟制度が続いてるのは、その人から伝わる世界観や雰囲気などを通して『何を美しいと思うか?』という、知識や文字では伝わらない感覚があるからで、そのために師匠と弟子という関係が大事なのかなと思います。
――― Ai:
今は暮らしの中に溶け込むようにヨガ的に音楽をされながら、演奏会の機会も多い大夢さんですが、インド音楽を始めた時は人前で演奏することは視野にあったんですか?
――― 大夢さん:
最初はそんなのはハードルが高くて、まさかできるとは思ってませんでした。
でも始めて一年で、師匠から機会を与えてもらいました。
日本では、シタール奏者の南沢靖浩さんの伴奏が初めてです。
彦根出身で中学校が一緒という共通点もあったし、南沢さんはテツヤさんのグル・ジーとも知り合いだったので、僕たちの流派のことをよくご存知で、伴奏の仕方なども教えてもらいました。
まだまだ音楽的なこと何もわかってなくて、全然ダメだったんですけど、そんな状態から始まり、本番で出来ないなりにやって失敗を重ねていきました。
――― Ai:
今はどんな風に練習されてるんですか?
――― 大夢さん:
日本での練習時間は、時期によってまちまちですが、実際に太鼓を触ってる時間はそこまでめちゃくちゃ長くはないです。
今のところ、どんな時期も、どんな状況下でも、大体毎日最低1〜2時間くらいは触ってますが、一日中とかはやりません。
基本は基礎練習をずっとやってますが、体育会系の筋トレみたいな練習にはならないように意識しています。
常に楽にストライクゾーンの音を出せるように。
楽に演奏したいです。
温泉に浸かってるような感覚でパカーワジをたたけるようになりたい。
例えば歩いてる時や、車を運転している時なども、それをなにかしらの練習にしてしまうようなつもりで過ごしたり、割と常にパカーワジやインド音楽のことをどこかで考えていて、そこにつながっていくような意識になっていると思います。 そうやって過ごしていると、自分自身といつも向き合うことにもなって、段々生活と練習の境目が薄れてきたり。 太鼓と、このような音楽が人生の軸としてあるということに救われています。
これをたたいてることが喜びなんです。
もしも演奏する機会がなくなっても、僕はこれをずっとやってるような気がします。
もちろん、誰かと一緒にやるということは一人とは違う特別感があるし、一つの目標にもなるし、今度のライブでShreeさんの伴奏をさせてもらうのもとても楽しみです。
とは言え、まずは自分ですね。
自分と調和、楽器と調和、人と調和、場と調和。
それを順番にやっていってる感じです。
――― Ai:
大夢さん、今日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
こんなにも豊かな心で音楽と向き合い、音楽とともに生きていらっしゃる大夢さんのことが知れて嬉しいです。
ライブを楽しみにしています。
よろしくお願いします。
11/21 北インド古典ドゥルパド声楽ライブ 秋麗*あきうららhttps://abcindia888.wixsite.com/abc-india/post/akiulala
∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∴ 中川 大夢:太鼓パカーワジ奏者
2015年よりパカーワジ奏者カネコテツヤ氏に師事。 北インド古典音楽の修練を軸に精進中。日本では関西を拠点に活動し、インドではヒンドゥー寺院やガンジス川などの聖地にて奉納演奏も行う。
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