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執筆者の写真ABC INDIA

アーティスト紹介#5 / タブラ奏者 中尾 幸介



幸介さんを一言で表現するなら、自然体。

まさにこの言葉がぴったりだと思った。


急に広がった黒雲と、降り出した雨が視界をさえぎる中、車を走らせながら、畑と田んぼに囲まれた景色の中へはいっていく。

細い道を突き当たった、山あいの古民家へ到着。

1ヶ月半前、初めてのお子さんが誕生し、子育てと新しい暮らしがスタートしたばかりの、中尾幸介さんのお宅だ。


出迎えてくれた幸介さんと、赤ちゃんを抱っこした奥さん。

3人の顔を見ただけでまるで、胸の奥で砂時計の砂が最後までサラサラと落ちきった後のように、時間がゆっくりと止まり、心が落ち着いていくのを感じた。




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 北インド古典音楽  タブラ奏者

 中尾 幸介さん インタビュー

 2021年9月


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INDEX

  • タブラ・インド古典音楽との出会い

  • 自然に囲まれた環境での暮らしと音楽

  • それぞれの「好き」を大切に


アーティスト:Kosukeさん

インタビュアー:Ai



 

タブラ・インド古典音楽との出会い

Ai: ここにはゆったりとした時間が流れていて、幸介さんのマサラチャイは美味しいし、お二人と話していると楽しくて、竜宮城にきたみたいにあっという間に時間が経っちゃいましたね(笑) ではようやくインタビューってことで、よろしくお願いします。


さて、幸介さんが最初に音楽を始めたきっかけは何だったんですが?


Kosuke:

音楽を始めたきっかけ…、そう考えたら僕は、音楽をやりたいと自発的に思ったことはこれまで一度もないかも知れないです。

中学から高校時代は、地元の友達とバンドはやってました。


でもそれも音楽をやりたいと思った訳ではなくて、ただ楽しいからって理由からですね。

ギターの人は既にいたから、じゃ他のものとなるとベースか…、そんな流れでベースをやることになりました。


Ai:

なんかイメージがぴったりです!

幸介さんは、普段から周りの人ことをよくみていたり、演奏なら相手の人のことを自然に感じて寄り添っていくような方だなぁと思っていたので、タブラもベースも、目立たなくても伴奏として重要で、低音で土台を支える大切な役割ですよね。そういうのがしっくりきました。


Kosuke:

えっ、そうなんですか。 いや、そんなの言われたの初めてだし、僕は役割とかも全く考えたこともないから、そんな風に思ってくれてありがとうって感じです(笑)

確かに低音の響きは好きだから、そういうのがベースやタブラをやることになったひとつの要素ではあるかも知れないです。


Ai:

バンドではどんな曲をしてたんですか?


Kosuke:

その頃は、グレイとかラルクとか、ビジュアル系が流行ってたし、その後はロック、パンクなんかをしてましたね。


Ai:

それで、タブラやインド音楽と出会ったのは大人になってからですか?


Kosuke:

タブラは2007年から始めました。

今僕が37歳だから、23歳の頃ですね。

バックパッカーをしてる時代にタブラに出会いました。


インドのコルカタにいるときに出会った日本人が、バラナシでタブラを習ってると言っていて、その人から勧められたこともあり、その後仲良くなったインド人にタブラに興味があると伝えたら、教えてくれたのが、ガヤーという町の楽器屋さんでした。

そこで陶器製のタブラを買いましたね。

翌年に行ったインドで、今の先生に出会ってます。



(*タブラは2つの太鼓がセットになっています。大きい方がバヤン・小さい方がダヤン又はタブラ、2つ合わせてタブラと呼ばれます。ここで言う陶器製のタブラというのは、バヤンが陶器製、ダヤンは木製という意味です)


Ai:

へぇ~、そうなんですか。習う前にまずは楽器を買うって面白いですね。きっとご縁があったからこそですね。


Kosuke:

そう思うと不思議ですね。

インドに行くこと自体も、東南アジアで周りのみんなに勧められたのがきっかけでした。

そのころは流れに委ねるように過ごしてましたね。

陶器製のタブラは重くて、ソフトケースだし、移動が大変だったんですけど、その時に買おうと思ったのごも縁だったんでしょうね。


最初の年は一年半ずっとインドでタブラをやってました。

翌年からは、一年のうち半年をインドで過ごすようになります。

タブラに熱中して、完全にタブラだけの時期でした。



Ai:その頃は何か目標があったんですか?

Kosuke:

それに関しては、何もなかったです。

ただただ、タブラをたたいているのが楽しかった。

どうやったらあんな風にたたけるんだろう!?そんなことばかりをずっと考えながら練習する日々でした。


先生の演奏やコンサートで聴く演奏の中で、ハテナみたいなものはずっとあって、それを考えたり先生に聞いたりして、謎が解け、少しずつできることが増えていくのは、昔も今もとても楽しいです。



Ai:目標に向かって努力するというより、純粋な興味が幸介さんとタブラをつないでいるんですね。


Kosuke:

そうですね。

今の自分よりも上手になりたいという気持ちが大きかったし、ある意味それが目標だったとも言えるかも知れません。

単純に、上手になりたいという目標に向かってやってたのかも知れないですね。


今はコロナでインドに行けないから、先生にも会いにいけないし、色んなプレーヤーがやってるフレーズなどを解読しようと練習してみたりしてます。


逆に、Aiさんもタブラをされてますけど、これができるようになりたいって目標はあるんですか?


Ai:

うーーん、私は始めて10ヶ月。

まだまだそんなレベルにも達してないので、教わったことをひたすら練習してます。

「これができるようになりたい!」と思ったこともないし、まず演奏を見ても何をやってるかわからなくて全然ついていけないですね。


バンスリーもタブラも共通して、周りの人にもわかるような大きな目標に向かって練習するというより、自分の中の小さな課題に対する、「できた!」というささやかな達成感や喜び、集中して瞑想的に練習している時間そのものが好きでやってます。

それが私のエネルギーになるし、整えてくれているように感じてます。


Kosuke:

そうそう、まさに僕もまさにそんな感じですよ。


Ai:

わぁ!そうなんですね。似たようなフィーリングでタブラをされているって何か嬉しいです。


例えば私なんかは、インド古典音楽を知ったのが最近なので、今の年齢から音楽で生きていくぞ!とかはないんですが、でも練習することが自分を整えてくれるのでやっぱり毎日に欠かせないものになってます。


 

自然に囲まれた環境での暮らしと音楽



Ai:

幸介さんは、タブラやインド古典音楽をされながら、暮らしとのバランスをどうやってとっておられるんですか?


Kosuke:

うーーーん、それはなかなか大きなテーマですね(笑)

僕は、7月に子どもが生まれて子育てが始まり、今はタブラを触れる時間が減ってます。


タブラを触れない日が続くとイライラもするし、タブラをたたきたい、もっとやりたいって気持ちはありますね。

でも今は我が子と過ごせる時間や、日々の成長を奥さんと一緒に見守る時間が大切なので、一旦楽器は脇においてる感じです。


でも……、叶うならば今後も、もっとがっつりタブラをやりたいですね。

そういう気持ちはあります。


Ai:

やっぱり、そうですよね。私もそこのバランス(如何に楽器に触れる時間を確保するか?)がもどかしく感じることが多々あります。

幸介さんは、住む環境と音楽とはつながってると思いますか?


Kosuke:

そうですね…、そんなに深くは考えていないし、意識しているわけではないですが、それは当然ありますよね。日々のことだしつながってると思います。

僕は体調を壊した後、このままだったらタブラも長く続けられないと感じたことや、家族ができたというきっかけもあり、滋賀県の日野町に引っ越してきました。

こっちにきて良かったと思うし、自然の中で生活しているのは性にあってると改めて感じてます。



Ai:

暮らしや生き方とつながってる音楽だからこそ、家族ができたり、引っ越しで住んでいる環境が変化すると、ダイレクトに影響を受けるものですよね。

インド音楽以外には、どんなのを聴かれるんですか?


Kosuke:

そうですね、たとえば冬だったら、múm、シガー・ロス とか、陽気な気分ならレゲエ調の曲とか、雨の日はジョニ・ミッチェルとか…、そんな感じかなぁ。

インド古典音楽を全然聴かない期間とかもありますよ。

その時の気分によって色々聴きます。


Ai:

インド音楽だけじゃなく幅広く自然に音楽に触れる毎日なんですね。

そのナチュラルな感じがすごくいいなぁと思います。


音楽に限らず、人とのコミュニケーションにおいてもそうみたいですが、幸介さんは、タブラの演奏をされる時にも、相手の人のことを丁寧に感じながら、絶妙に自然にいい感じであわせてるように見えるんですよね。


演奏時は、相手の方との音を通したコミュニケーションをしようと、意識的にされてるんですか?


Kosuke:

………、いや、ほんとにそんなに何も考えてないっすね(笑)

それが正直なところです。

でも極力良くなるように、その場でつくりだす音楽を濁らさないように、ということは意識してます。

できるだけ調和はあったほうがいいんじゃないかなとは思ってます。


あとは、演奏当日の「よろしくお願いします」って気持ちですね。

その日の天気、雰囲気、お互いのコンディションなんかで演奏も変わるので、その日の調子に合わせていく感じです。


やっぱりみんな、楽器も流派も違うし、それぞれの感性でやってるし、その人のやりたい音楽ってみんな違うと思います。


特にタブラは伴奏だから、相手の人のやりたい音楽はどんなのだろう?と感じながら、考えながらやってます。

いつも、その日の演奏を『楽しむ』気持ちでやってます。


今こんなコロナの状況で、演奏できる機会も多くなく、久々に顔をあわせて演奏できるということ自体が貴重だからこそなおさら、どんな時も楽しもうと思ってやってます。


 

それぞれの「好き」を大切に



Ai:

幸介さんは、タブラの教室もされていて、生徒さんもいらっしゃいますが、教える時に大切にされていることはなんですか?



Kosuke:

僕は、タブラが好きでタブラに興味を持ってくれる人に対しては、親近感がわくし、自然と心がオープンになります。

どうぞ、土足であがってきてもらってもいいですよってくらいに。

いやむしろ、僕の方が先に土足…、くらいの感覚ですね(笑)



生徒さんに対しては、僕はそれぞれの「好き」を大切にしてほしいと思ってます。

インド古典音楽をベースに伝えているし、きっちり音を出せるようになってほしいと、もちろん思ってます。

でもそこから本当にハマるかどうかはその人次第だし、タブラやインド古典音楽を好きになってくれたら嬉しいですけど、その人自身が「好き」と思えることをすれば良いと思うんですよね。


僕には使命感のようなものはあまりないけど、タブラやインド古典音楽が「好き」でここまで続いてるから、生徒さんにも「好き」を伝えられたらと思ってます。


Ai:

最後まで自然体な幸介さんですね。

相手を等身大の自分に落ち着かせてくれる人だなぁと思いました。

勉強になるお話、素敵なお話、今日は本当にありがとうございました。


 


この後、バンスリー(横笛)を持参していた私は、幸介さんのご厚意で練習にお付き合いいただき、またまた竜宮城のようなひとときを過ごす。


最初私は緊張していたんだけど、ひと言ひと言、かけてもらう度に段々とそれが解けていって、音を出すのが気持ち良くなっていく。


なんて例えたらいいだろう?

子どものおままごとでセリフを失敗するのを気にすることなんてないように(もしそんな繊細なお子さんがいたらごめんなさい)、「心の赴くままに音を出して一緒に楽しもうよ」。

わざわざ言わないけど、間合いや穏やかな表情から、そんな言葉が聴こえてくるようだった。



あたりがもう真っ暗になった頃、庭のお花や畑の野菜を手渡して私を見送ってくれた、赤ちゃんを抱っこした奥さんと幸介さん。

それ以来今もまだずっと、あったかい気持ちが続いている。





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中尾 幸介 / タブラ奏者 2007年よりコルカタにて、タブラ奏者ビプロップ・バッタチャリヤ氏から学び始める。 インド古典音楽をはじめ様々なジャンルのアーティストとの共演を重ねる。 2016年パーカッションデュオpaonを結成し、2枚のCアルバム「rickshaw」,「Pedogenesis」をリリース。 http://www.kosukenakao.com


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