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執筆者の写真ABC INDIA

アーティスト紹介#3 / タブラ奏者 藤澤 ばやん

更新日:2021年8月26日

…ジャズなども即興音楽ではあるけど、インド古典音楽は特に、様々なルールや制約がある中で演奏されます。そういった縛りが逆に、演奏する人の性格や感情などをよく表すんですよね。縛りが多いからこそ逆に、見えてくるものがある。演奏のやり取りの中でお互いに出していくっていうのが楽しいんですよね。結局のところコミュニケーションなんですよね、インド古典音楽って。そういうところが面白くて好きです…



∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∴ 北インド古典音楽 タブラ奏者 藤澤 ばやんさん インタビュー 2021年8月 ∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∵‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∴

タブラ奏者の藤澤ばやんさんは、このABC INDIA! の北インド古典音楽演奏会シリーズのきっかけをくださった方です。この春初めて私が、お客さんのいる前でバンスリーを演奏させていただいた時、伴奏してくださったのもばやんさんです。今まで色々とお世話になってきましたが、改めて音楽人生についてお話しする機会はなかったので、ワクワク楽しみに伺いました。

アーティスト:ばやんさん インタビュアー:Ai Q:タブラあるいはインド古典音楽を始めたきっかけは何ですか? ばやんさん: 僕は元々中学生時代からドラムをしてました。中学生の頃は独学、高校生ではバンドをやってたんですね。大学生時代にはドラマーの菅沼孝三さんから習ったりもしてました。 就職したのが東京の楽器屋さんやったんですけど、アパートに住んでたので、音の問題があってまぁなかなか続けることが難しかったんですね...。それで、うるさくない楽器はないか?ってことで考えたのがタブラやったんです。ちょうど下北沢にタブラの教室も見つけて通い始めました。その教室をされてたのが、最初の師匠のディネーシュ・チャンドラ先生でした。 Ai: へぇ〜!そうだったんですね。タブラを始めるきっかけが「音の小さい打楽器」という着目点が意外でした(笑)とは言え、それ以来今までずっと、タブラとインド古典音楽を続けてこられたのは、何かこの音楽に惹かれるきっかけがあったからでしょうか? ばやんさん: ひたすら練習が出来るからなんです。特に楽器を始めたての頃はよくあることですけど、タブラをひたすら練習すると上達が明らかにわかるんですよね。どんどんやってるうちに楽しくなるし、そのうちタブラにのめり込んでいったって感じですね。 そんな折に、サンギート・メーラというイベントで、インド人タブラ奏者のマタ・プラサッド・ミシュラさんという方の、ベナレス流派の演奏を聴いたんです。ベナレス流派は、特にダイナミックスの強い演奏スタイルが特徴なんですけど、その演奏に圧倒されて、もっと学びたいという気持ちが強くなりました。その後仕事をやめて、インドに半年間、ベナレス流派のタブラを学びに行ったんです。でまぁ、帰ってきたらさらにタブラをやりたいという気持ちが強くなってて、そのまま今に至るというところですね。 Ai: 中学校の頃からドラムをされてたってことは、ご家族が音楽好きとか、そういう環境の影響もあったんですか? ばやんさん: いや、そういうのはないですね。ただまぁ、色んな音楽を聞くのは好きでしたね。家族が音楽好きだった訳ではないですけど、当時カセットテープなんかは沢山あったし、そういうのを引っ張り出してきてどんどん聞いてはいましたね。色んな音楽を聞いて雑食になったんですけど。実際演奏しだしたのは中学生からで、習ったのは高校生からです。大学生時代には、ドラムにのめり込んで、ハードロック・ヘビメタとかやってましたよ(笑) Ai: へぇ〜、ハードロックやヘビメタ!?想像できないです(笑)ばやんさんの温厚で優しい雰囲気、ガネーシャ神のような存在感って、まわりの皆んなにも定着してますが、ハードロックをされてた昔と今で、性格って変わりましたか? ばやんさん: いや、性格は変わってないですよ。人って誰でも色んな面や色んな感情があるじゃないですか。僕も同じで、色んな音楽をやりながら、音楽によってそういう感情を分けてたという訳じゃないけど…...、まぁ色々やってましたね。 Ai:

そうなんですか、やっぱり音楽って感情やその人にしかわからない感覚の表現でもありますもんね。 ばやんさん: そうですね。あ、そうそう。今はね、インド音楽をやってるじゃないですか。インド音楽って、清らかな音楽ですけど、演奏前には真逆の「ドコスコ!ドコスコ!」激しい音楽を聴いたりしますよ。バランスをとるっていうのかな。 Ai: へぇ!面白い!(笑) ばやんさん: なんかね、あんまり清らかになりすぎると天に召されそうじゃないですか。だから召されないように下げとこうというか…...(笑) 僕って結構切り替えが早いんですよね。だから、ギリギリまで違うことをしておいてから演奏した方が、良い表現ができるというかね、それが一番大きな理由ですね。人によっては、それに向けてジワジワあげていく人もいると思うんですけどね、僕の場合は違うことをやっておいてスイッチ式でスコーーン!!と切り替えたほうがその反動でうまくいくようなところがありますね。だいぶ変ですね(笑) Ai: えぇ〜、そうなんですか!面白い!!(笑)そう言えば話が変わりますけど、ばやんさんが先日の演奏でMAXに盛り上がっている時に、とても楽しそうだったのが印象的でした。 ばやんさん: あぁ、そうですね、あの時は楽しかったですね!人それぞれ演奏を楽しむポイントが違うかも知れないですけど、僕の場合は、一緒に演奏している相手の人が、自分の想像を超えたものを繰り出してくるような時が一番楽しいですね。自分に今までないものが耳に入ってくる瞬間です。逆にある程度予想できる時は、いかに合わせていくか?ということになるんですけどね。予想できないことがきた時に、その場の判断で演奏していくことになるので、そういうのが楽しさの源ですね。 Ai: じゃあ、ばやんさんがインド古典音楽が好きで続けているモチベーションって、色んな方との演奏が楽しい!というところなんですね。 ばやんさん: そうですね、インド古典音楽ってそういう音楽ですから。ジャズなども即興音楽ではあるけど、インド古典音楽は特に、様々なルールや制約がある中で演奏されます。そういった縛りが逆に、演奏する人の性格や感情などをよく表すんですよね。縛りが多いからこそ逆に、見えてくるものがある。演奏のやり取りの中でお互いに出していくっていうのが楽しいんですよね。結局のところコミュニケーションなんですよね、インド古典音楽って。そういうところが面白くて好きです。 Ai: なるほど、ばやんさんにとっては音楽を通してコミュニケーションを楽しんでいるって要素が大きいんですね。確かに、ばやんさんを見ていると、顔が広くて、普段のコミュニケーションも、相手の方のことをよく見てよく考えてくださっているなぁというのが伝わってきます。 ばやんさんって本当に顔が広くて、皆さんがばやんさんのことを慕われているのがよくわかるんですけど、なんでなんですかね!?ご本人にお聞きするのも変なんですが……(笑) ばやんさん: なんでしょうね、わからないけど僕はやっぱり自分にないものを見るのが好きなんですよね。インド音楽に限らず違う音楽に触れるのも好きですし、面白い人たちが沢山いるのでそういう人たちを紹介したいという気持ちもあって。こんなすごい人がいるんやで!っていうのを自分の友人・知人と共有したい、知らないのは勿体ない!みたいなね。好きな映画を友人に勧めるのと同じような感覚ですよね。 Ai: そうですか、やっぱりそんな風に考えてはったんですね。今回の演奏会の企画も、そんな話の流れから決まりましたもんね。ばやんさんの人脈の広さは本当にすごいなぁといつも思います。 ばやんさん: (ちょっと照れたように…)う、うん、そうかなぁ。 あ、あとはね、10年ほど前にZEST御池で月に1度のペースでやっていた、御池ミュージックフェスティバルで得た人脈は大きいですね。終わったらすぐにもう次があるって感じで、人を集めるのが大変ではありましたけどね。でもその頃に本当に色んな人に出演してもらってて、そこで出逢った人、お世話になった人、その時のことは一番大きいですかね。 Ai: それは素晴らしい活動ですね。10年も前からそんな活動を続けていらっしゃったとは本当に頭が下がります。 Ai: さて、話が変わりますが、ばやんさんは日々どんな風に練習したり、音楽と向き合っていらっしゃるんですか? ばやんさん: はい、そうですねぇ、色んな練習方法はありますが、僕はいつも自分なりの表現を見つけようとしてます。 インド古典音楽って、文字通りインドの音楽な訳ですから、インド人と同じようにそれをやろうと思うと、住む環境・話す言葉・食べるものなど、全てをトレースしないと同じような表現はできないと思ってるんですね。そこに住んで、そこの空気を吸ってこそできるもの、そうなるとインドに住んでインドで活動するしかない。 だからこそ僕には、インド人と全く同じような表現はできないと思うので、僕なりの音楽というか僕なりの表現をしたいといつも思ってます。個人練習などもその目標のためにやってますね。日本のインド音楽というものがあってもいいじゃないかと。どちらかというと僕はそれをやっていきたいと思ってるんです。 Ai: 確かに、納得です。音楽ってそうやって普段触れているものが自然と出るものだから、日本に住んでいる以上、「日本に住む日本人のやるインド音楽」としての良い表現ができたらいいですね。 ...ばやんさんは、そのために一番大事だと思うことは何ですか? ばやんさん: (一瞬も間を空けずに)音質、良い音ですね。 Ai: う〜ん、なるほど。 ばやんさん: 例えば、インド古典音楽で、Jala(ジャーラ)という、とても速いスピードで演奏するパートがあるんですが、僕は、その半分くらいの速さが面白いと思ってるんです。インド人が聞くと多分「おっそ!」と思うかも知れないですけどね。あとは、最近のインドだと、バンスリーのようなメロディ楽器でも、速く吹くとか、トリッキーであるとか、リズムの妙だとか、そういうのを重視するところがあると思うんですね。でもそればかりが音楽じゃないと思っていて、もっとゆっくりした表現でも十分に楽しめる。必ずしもスキルにこだわる必要はないと思ってます。 ただ、スキル云々以前に良い音・悪い音というのはあります。単音が綺麗であることが必須条件。単音でみせられることが大事。音、音質、ロングトーンが良ければそれだけで成り立ちますね。良い音をつくってからが、個人の裁量ですよね。 それで、インド人の素晴らしいところは、スキルも音質も両方あるところですけどね。 いや〜〜、アイツらはほんまにすごい!! タブラも同様に音ですね、楽器の良さもある程度関わってきますが。僕はどっちかというとそれを重視して今も練習してます。なんていうか純粋な音を聴きたいんですよ、ただそれだけですね。 Ai: (なんかこう、グーーッと胸に迫る、ばやんさんの言葉のエネルギーに感じ入りながら…) う〜ん…..、今までもそんな話をばやんさんから伺ったじゃないですか、そのアドバイスがすでに私に活きてます。音質やピッチも自分なりにかなり気にするようになったし、音への解像度が高まりました。 悩むというほとでもないんですけど…...、Tihai(ティハイ)など、決まった拍子の中での複雑な音あそびもインド音楽の特徴だし、それがあると聴く人も楽しめるし、練習していきたいと思います。でもそれ以前に、自分が思うような綺麗な音色がまだ出せないし、ばやんさんがおっしゃるように「単音が綺麗」じゃないので、複雑なことを頭で考えて練習する気持ちになれないんです。だけど練習しないとできるようにならないし、演奏として成立しないから…。今はまだずっとその葛藤があります。いつも色々教えてくださってありがとうございます。 ばやんさん: あとまぁ、これは脱線しているかも知れないですが、場づくりの大切さというのもあります。コンサートホールでライブをやるのと、カフェでライブをやるのと、街頭でライブをやるのと、それぞれ必要なスキルが違うんですよね。 例えば…...、これ知りませんか?世界一上手なバイオリニストが駅でバイオリンを弾いたけれど、誰も見向きもしなかったっていう話。あれ、よくよく考えたら当然だと思うんですよね。例えば、朝の忙しい時間に駅でバイオリンを弾いたとして、そのバイオリン音が聴こえてきて立ち止まろうと思うか? 大きいコンサートホールで、ゆっくり聴ける環境があって初めて、素晴らしい音楽を聴くことができる。 僕はね、昔ライブ会場に行く時の電車に乗る瞬間が一番好きでしたね。電車に乗るじゃないですか、そしたらどっかで見たようなバンドTシャツを見かけるんです。会場に近づくにつれて気持ちが盛り上がって、会場に着いたらもうそんな人ばかりが集まってて、全員が仲間っていう意識。一つの目的に向けて集まった人たちで、聴きたかった演奏を聞く。しかもそこで面白い演奏を聴かされたらもう、面白くない訳がないじゃないですか! カフェでライブをやるならそれに応じた場づくり。駅でバスキングをするならそれに応じた場や演奏。MCとか色んな要素も含めて、全てが音楽をつくってる要素なんですよね。


だから、トコ会館でやるならそれに応じた場づくりをする必要があって、そう考えると今回みたいに演奏会に向けてインタビューをしてくれているっていうのは、すごく大事なことで、そういうのも音楽を聴く上で大事な要素だと思ってます。 Ai: 本当におっしゃる通りですね。私はこうしてインビューさせていただけることが素晴らしい学びになっていてとてもありがたいです。 ばやんさん: 以前ね、自転車を路駐して演奏会に行ったことがあったんですけど、まぁ、その演奏は全く耳に入らなかったですね。そこで聞く音楽ほどつまらんものはなかった。頭の中は、「自転車パクられたらどうしよ?撤去されへんかな!?」しかなかったですね(笑)まぁ、あれは路駐して行ったことを反省です。 提供する側はもちろんですけど、聴く側も含めて、お互いの準備が必要ですね。結局それらが合わさって、そこに良い演奏があれば、最高のライブになる。もちろん、スキルも大事な要素のひとつですし、イケメンだとか、喋りがいいとか、演奏がいいとか、会場の雰囲気がいいとか、色んな良いの総合が、結果的に音楽の良し悪しになるんですよね。 そういう意味ではスキルって埋められるんですよ。超速で演奏するのも一つだし、ゆっくりで静かな演奏が好きっていう人もいるし、お客さんにあったもの、それを好きでいてくれるお客さんがいれば成り立つ。上手い下手の問題だけじゃないんですよね。まぁただ、テクニックは増えたらそれだけ便利だしあるに越したことはないけどね。 つまり、「場づくり」+「良い音」が、音楽で一番大事なことだと思います。

トコ会館でのライブもそんな風に積み重ねていけたらいいですね、と思います。 いやいや、本当にお疲れ様です。 Ai: ばやんさん、すごく上手に締めくくっていただいてありがとうございます!「場づくり」+「良い音」のお話がとても心に響きました。演奏会楽しみにしています。よろしくお願いします! では最後に、今度の演奏会で共演される、バイオリン奏者の村山あすわさんの紹介をお願いできますか? ばやんさん: はい。出逢った頃は、こんな風に一緒にインド古典音楽を演奏できることになるとは思ってなかったです。でも、こうして練習を通して色んな音のコミュニケーションができるのが本当に嬉しいです。楽しみにしてます。




∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∴ 藤澤 ばやん / タブラ奏者 京都生まれ、滋賀県在住。 20年前に下北沢でディネーシュ・チャンドラ氏から受けたタブラレッスンをきっかけに、タブラの世界にのめり込むようになる。 京都・滋賀を中心にインド音楽・ワールドミュージックイベントの企画・出演をしたり、タブラ教室を開いている。


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