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アーティスト紹介#1 / サーランギー奏者 ナカガワ ユウジ

更新日:2021年8月26日

…聴きにきてくださるのは確かに人、人間なんですけど、それだけのために作られた音楽ではない、目的が違うんだと思います。何と言うか、もうちょっと上の存在というか、奥の方にある、” 何か ” を目指している。そこに到達するために作られている音楽だという気がします…



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北インド古典音楽

サーランギー奏者

ナカガワ ユウジさん インタビュー

2021年7月

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実はナカガワ ユウジさんと私の家は自転車で行き来できるくらいご近所さんなんです。

今回ユウジさんは、自転車に乗って軽快にサーランギーを背負って来てくださいました。

なんと贅沢なことに、最初に少し演奏を聴かせていただいてからの、自然な流れでのインタビューとなりました。


アーティスト:ユウジさん

インタビュアー:Ai


Ai:

素晴らしい演奏をありがとうございました!

今日はインタビュー楽しみにしていました。

どうぞよろしくお願いします。

早速ですがお聞きしたいことがいっぱいあって(笑)

まずはこのサーランギーって楽器に興味津々です。


Q:

沢山の弦がありますが、このメインの弦は何からできているんですか?


ユウジさん:

この弦(ガット弦)は、ハープ弦なんですが、元々はヤギの腸から出来ています。

今はインド人サーランギー奏者もハープ弦で代用する人が多く、ハープ弦だと太さが一定で、チューニングが変わりにくいし、切れにくいですね。

スチール弦も使っていますがこれは、チェロ用のものです。

同時に2弦弾く奏法の時に、ガット弦よりもスチールの方が強いので、しっかりした音が出ます。


Ai:

(その他共鳴弦も沢山あって、共鳴弦を演奏するラーガに合わせてチューニングすることや、ボディに魚が描かれているのは、インドのある地域では吉兆の意味もあるということなどを教わりました。私はギターも持っているので、このサーランギーという弦楽器の素朴というか原始的なつくりにとても魅力を感じました。)


Q:

サーランギーあるいはインド古典音楽を始めたきっかけはなんですか?


ユウジさん:

ネパールにもサーランギーという楽器があるんですが、初めてネパールに観光で行った時、ネパール人のサーランギー奏者からいただき、奏者さんから弾き方を教えてもらったりして、しばらくしてそれをちょっとだけ弾けるようになりました。実は名前は共通していても、ネパールのサーランギーとインドの古典音楽で使われるサーランギーは形も弦の数も違います。日本に帰国後、インドのバラナシでタブラーを習っている日本人に会い、彼のタブラーソロの伴奏をネパールのサーランギーでやることになったのですが、当時インド音楽のことは全く知らなかったので、もちろん全然うまく出来なかったんですね。

悔しかったので、インド古典音楽の基礎を勉強しないと!と思いました。

その時に、インドにもサーランギーという同じ名前の楽器があるよと教えてもらいました。

なので、インド古典音楽を始めたきっかけというのは、今私が演奏しているインドのサーランギーという楽器に惹かれたわけではなかったんですが、とにかく最初は音楽理論に興味が湧き学びたくなった。

ということで、全く何もわからないところから始めました。


Ai:

元々音楽をされてたんですか?


ユウジさん:

はい、ギターをしてました。

バンドでロックとかをやっていて、今では黒歴史ですよ(苦笑)


Ai:

そうだったんですね(笑)

では、そんなきっかけでインド音楽とサーランギーを始められたのはいつ頃なんですか?


ユウジさん:

18年前くらいですね。

インド政府の奨学金(ICCR)を受けて音楽学校に在籍しながら、グルジーについて伝統的な手法でも音楽や演奏を学んだんです。

最初は、サーランギーの師匠(グルジー)についたんですが、4年くらい経ってからグルジーの勧めもあり、クルジーが教えていた音楽学校の器楽コースに在籍しました。バートカンデー大学のカリキュラムのコースを学び始めました。

試験も大学と同じものでした。教科書はヒンディー語でした。出題はデーヴァナーガリー(ヒンディー語やサンスクリット語などを表記する文字)で書かれたヒンディー語と英語で、それを読んで打楽器のボルと音名表記以外は英語で答えていました。

音楽学校に通ってもステージで通用する演奏はできるようにならないと言われたりますが、実際にそれを経験して面白かったし、役に立っていると思ってます。

ただ試験は大変でしたね。


Ai:

学校の勉強と、グルジーから教わることが違って混乱するようなことはありませんでしたか?


ユウジさん:

混乱はなかったですね。

学校で勉強することって、元々音楽に色んなスタイルや解釈があったのを、後から体系化して教えるようになった、スタンダードな知識なんです。

それに対して、グルジーから教わるのは、パフォーマンスしていくためのものなので、教科書にのってるルールだけでは固められていない。

芸術として、音楽として、実際にステージでパフォーマンスしていくための方法を、グルジーからは教わっていたんです。

もちろん、学校で学んだことはステージ上でも役に立ちますし、今だに役立っていると感じることはありますよ。

ただ、学校で学んだことと、グルジーから教わったことは、全然違いますね、内容が。


Ai:

大変な努力をしながら学ばれていたんですね。興味深いお話です。

以前、バンド活動をされていたとのことでしたが、そういった音楽と、インド古典音楽の違いって何だと思われますか?


ユウジさん:

そうですね、意識が違う…、目的が違う気がします。

バンドでやるのは、相手が人、聴衆です。

でもこの音楽(インド古典音楽)はそれだけではない気がする。


今、私が音楽活動をしていて、聴きにきてくださるのは確かに人、人間なんですけど、それだけのために作られた音楽ではない、

目的が違うんだと思います。

何と言うか、もうちょっと上の存在というか、奥の方にある、” 何か ” を目指している。

そこに到達するために作られている音楽だという気がします。


Ai:

そうなんですね。

では演奏される時は、お客さんのことは意識されているんですか?


ユウジさん:

ほとんどしていないですね。

グルジーから教わったもの。

そのグルジーにもグルジーがいて、その後ろにはずっと今までつながってきたものがある。

何百年もかけて伝えられてきた、卓越したものの積み重ねがあり、今自分はその先端のところにいて、運よくそれを教わることができている。

そうやってずっとつながってきた、後ろの存在、背景にあるもののほんのちょっとが、その片鱗が、ちゃんとやってたら伝わると思うんです。


例えば、歴史的建造物を前にして、テキストを読まなくても、その存在に圧倒されるかのように、聴いたら伝わるものがある。

そういったものを大事にしていきたいと思っているし、それが出せたらいいなと思いながら演奏しています。


もちろん楽しんでもらえたらありがたいんですが、そこまで意識してはいないですね。

グルジーから教わった大事なことを、ちゃんと芸術的に表現することができるか?ただそう思いながらやっています。


Ai: 

言葉にならないその重みや深さが伝わってきます…。

そんな想いで演奏されていて、ステージ上でうまくいった!という時と、あかんかったなぁと思う時ってあるんですか?


ユウジさん:

毎回、あかんかったなぁと思ってますよ(笑)


Ai: 

えー、そうなんですか(笑)


ユウジさん:

というかまぁ、あまり覚えてないことが多いですね。

集中してるんでしょうか、何も考えてないんでしょうか。

後から思うと雑念があった気がするなぁとか、録音を聴いてそう思ったり。

でも逆に、集中できなかったと思ったのに、聴いてみると意外と良かったりもする。

今でもそれは何故なのかよくわからず不思議ですが、そういうこともありますね。。


Ai: 

そうなんですか…、奥の深い音楽の世界ですね。

ユウジさんのグルジーはまだご健在なんですか?


ユウジさん:

残念ながら4年前に亡くなりました。2017年7月です。

その後は毎年命日にインド行って演奏していたんですが、昨年からは行けなくなりオンラインでやったりしています。

サーランギーを始めるまで、日本の伝統音楽についてもあまり知らなかったですし、いわゆる師匠(グルジー)や師弟関係、というものがどういうものかよくわかっていませんでした。

すごく不思議な感覚なんですが、家族のようであり、もちろん先生でもあり、今まで私にとってのそんな存在は人間ではいなかったので、不思議な感じでした。


Ai: 

そうだったんですね…、寂しくなりましたね。

グルジーが亡くなって、先ほどのお話の通り、ユウジさんご自身が継承者となった、責任や重みは感じますか?


ユウジさん: ありますね。 インド人の兄弟弟子に教えていますが、自分にその役割がきたことが不思議に思えます。 私はインド人でもないですし。 グルバイと言いますが、同じグルジーから学んだ兄弟弟子に教えています。 彼はインドに住んでいるのでなかなかやりにくいんですが、今は録音のやり取りなどで教えています。 他には、インド人の声楽家の方の息子さんや、日本でインド音楽を学ぶ方々にも教えたりしてます。


Ai: 

ラーガの種類って何種類ぐらいご存知なんですか?


ユウジさん:

えーと、それは数えたことがないですね。

自分に対しては伝統的な教え方をする先生だったので、ノートは書かないし、自らすすんで書けない状況でしたね。

学校のテスト対策とかでは書いていましたが。

ほぼ毎日、朝から晩までグルジーと接していました。

ひたすら音楽を浴びていましたから、記憶に残っているんです。

それぞれのラーガの特徴などは、ある程度はかたちとして身体にはいっていると思います。


Ai: 

そうなんですね!

でもなぜ、新しいラーガが記憶に残っていくんですか?


ユウジさん:

なんで残るのかな、わからないですけど、レッスンの記憶は深くまで根付いていると思います。

面白いことに、録音がないものは逆にすごく覚えてたりもします。

覚えが悪いので、録音するな!と怒られたこともありましたから(笑)


Ai:

(ノートは書かない方がいいの?という私が心の中で思ったことに答えてくださるように…)


ノートに書こうと思えば書くことはできるかも知れませんが、実際に体感として覚えてないと、タイミングなどのディティールを書くことはなかなかノートだけでは難しいのではないかと思います。


もちろん、書くことは悪くないと思いますよ。

それによって骨格はつかめますから。

ただ、100パーセント思い出すのは難しいと思います。

音源とそれに対応するノートがあればいいですけどね。

やっぱり、記憶がおぼろげになると私もレッスン音源を何度も聴いたりはします。


Q:インド音楽以外の音楽を聴くことはありますか?


ユウジさん:

(しばらく考えて…)最近はあまりないですけど、自然の音を聴きにいくのは好きです。

そこに音楽のいろんなヒントがあるじゃないですか。

音がない静けさや、静寂な要素がある音を聴きたいと思うことが多いです。

よく近くの山に行くんですが、ある空間にいくと、地形などのせいか、音が静寂になるポイントがあったりするんです。

そういうところに行って静けさを味わうのは好きです。


Ai:

わかります!私も最近畑を初めたんですが、家の中では電化製品、街では車の音や様々な音が常にはいってきますが、山の上の誰もいない畑に行くと、風で草が触れる音など、自然の音の中に静けさが感じられるのって本当に心地よくて好きで必要な時間だなって思います。


ユウジさんにとって、インド音楽と自然の音に、共通するものってあるんですか?


ユウジさん:

ありますね。

先生からそういう教わり方をしたのもあるんですが、インド音楽は、自然界にある植物、動物やさままざまな事象を、音というかたちに変換・移転させてるだけじゃないかなって思ってしまう。

自然界に存在しているものを注意深くみて、それを音として表現していく。

インド古典音楽ってそういう要素が強いんじゃないかと思います。


Q:

普段の練習時間はどれくらいですか?


ユウジさん:

今は3時間くらいですね。


Ai:

それは短く感じるんですか?

基礎練をしてからラーガの練習などをされるんでしょうか?


ユウジさん:

そうですね、3時間って短いですね。

インドではもっと長く練習してましたが、今はそれが活きていると思います。


最初の1、2時間は、隣にいる人がいたとしたら嫌になるくらい、ひたすら反復練習(笑)

それを通して、その日の自分の位置を探っていくんです。

集中の度合いなどを計測していく。とても重要な要素、重要な練習です、基礎練は。


上り、下りの練習を延々とやっていたり、一発で音の真ん中に当てられるかの練習をしたり。

即興演奏の練習はあまりしないですね。

だいたいは基礎練だけしています。

その日の音を掴むだけで、僕はいっぱいいっぱいなんです。


Ai:

基礎練だけで十分とは、身に沁みるような言葉です。



……貴重なお話を沢山聴かせてくださって本当にありがとうございました。

とても心に響くお話で、勉強になりました。

では最後に、今度の演奏会で共演される、タブラ奏者の中尾幸介さんの紹介をお願いできますか?


ユウジさん:

はい。

こうすけくんは… 、言葉で言うのは難しいけど…(笑)。

僕の演奏に応えながら、その場その場で色々考えてやってくれているから、一緒に演奏していてすごく楽しいです。

個人的にも色々とお世話になっていて、淡路島での演奏会にも一緒に行ってもらったりと...。

今度の演奏会も楽しみにしています。


Ai:

そうなんですね。

ユウジさんとこうすけさんは、感性が似てるところもありますよね、自然体なところとか。

色んなことを感じているけど、言葉で表現したり伝えることにそれほど執着していないというか、積極的ではないというか。

その奥ゆかしさや適度な脱力感なんかが共通しているように感じます。

その分、演奏を通してグッと伝わってくるものや響いてくるものを感じます。


今日は、インタビューさせていただいてありがとうございました!

お二人の演奏を楽しみにしています!






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ナカガワ ユウジ / サーランギー奏者


2003年にインドのバラーナスでFaiyaz Ali Khan氏にサーランギーの基礎的な演奏法を学ぶ。2004年に来日したSangeet Mishra氏より演奏法のガイダンスを受ける。

2005年から約十二年間、ムンバイーにて声楽家・サーランギー奏者のPt.Dhruba Ghosh氏に師事する。2009年から2015年までインド政府よりICCR奨学金取得、Ghosh氏の元で伝統的な方法で古典音楽の修練を積むと共に、Ghosh氏の務める音楽学校にも在籍する。


2015年Bhatkhande音楽大学の学位サンギート·ヴィシャラドを取得。2009年よりインドでサーランギー奏者として演奏活動をはじめ、ムンバイー、チェンナイ、アーグラー、コルカタなど、インド各地でソロ公演や北インド古典声楽、打楽器ソロの伴奏、演劇などで伴奏などを行う。北インド古典音楽の他にもカナダのVICO(Vancouver Inter-cultural Orchestra),オランダのAtlas Ensembleなどでの演奏など他ジャンルの音楽とのコラボレーションにも積極的に参加する。現在までインド国内の他、日本、タイ、ネパール、シンガポール、カナダ、オランダ、ベルギー、イタリア、でも演奏をする。


Yuji Nakagawa is a Japanese-born sarangi player who has learnt the instrument maestros across India for over 16 years.

As one of the senior most disciples of the late Pt. Dhruba Ghosh, with whom he honed his skills for 12 years.Yuji learnt from Dhrubaji in the rigorous guru-shishya parampara, supported in part by an ICCR scholarship from 2009-2015. His initial training in the sarangi was in Varanasi, from senior sarangi master Ustad Faiyaz Ali Khan. He also received some technical guidance from Shri Sangeet Mishra.

Yuji has performed extensively as a soloist, and has also accompanied many eminent Hindustani classical musicians. He has performed solo sarangi recitals across India, and has given solo and ensemble performances in countries including Thailand, Singapore, the Netherlands,Canada and his home country Japan.

Yuji’s performances have been received with critical acclaim, and he has also received awards and scholarships for his music, including at the 2017Osaka International Music Competition. www.yujisarangi.com




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